本のおすすめ ~ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー~

 中学生と高校生にすすめたい本を1冊ずつ紹介します。

小説を読めば、自分が経験できないようなことに出会えるし、「ネットで何でも分かる」と言われる世の中だけど、じっくり本を読んで考える力は、学校を出てからも学び続けるために必要だ、と思います。

高校生にはノンフィクションで『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。著者はブレイディみかこさん。お名前から想像できるように国際結婚をされていて、イギリス南部のブライトン在住。彼女の息子さん(表紙の少年でしょう)の中学校での生活やイギリス社会が描かれている本です。イギリスは、つい先だってEU離脱を行い(目下のところは移行期間だけれど)注目されている国ですが、ブレグジットの背景に移民問題があることは、しばしば指摘されます。その実情がこの本のあちこちで描かれている。一つ例を出せば、自身も東欧からの移民なのに、別なカテゴリーの移民に対し差別発言を連発する息子の同級生が出てきます。そして、東洋系のルックスを持つ自分たちもよそ者として扱われた経験を扱いながら、「異文化の人たちが交流する、共生していく」とはどういうことか、という問いをブレイディさんは投げかけています。

日本でも、外国にルーツを持つ人が増えていく中で、異文化共生という問題は他人事ではありません。そういう意味で、「母ちゃんの国にて」という章のエピソードには考えさせられるものがあります。一時帰国したブレイディさんと息子さん、おじいさんと一緒に日本料理店で食事を楽しんでいます。その店で、スーツ姿の男性に、息子は「日本語ができるのか」と聞かれる、「うちの子は英語オンリーなんです」とブレイデイさんが応える、そうするとその男性が「日本に誇りを持つ日本人ならそれじゃいかん。あんたも日本人なんやけ、日本語を教えて、日本人の心を教えんと、日本の母とは呼べんな」と返すわけですが、この男性に対し私たちは何と言ったら良いのでしょうか。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』について、もう一つ特筆すべきことは、この本は、実は学校論にもなっているということです。演劇教育やシティズンシップエデュケーションについても取り上げられています。私たちが参考ないし参照すべきことがいくつも載っています。そういう意味では、この本は若い教師たちにも是非読んで欲しいと思います。

そして、中学生には、小説で瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』。この本は、地方の中学生が駅伝大会に出場するまでのあれこれと当日の様子を描いたものです。6人の中学生のそれぞれの語りで話が進行していくのですが、ページをめくっていくと、同じ場面が別の視点から描かれていて、「あぁ、そういうことだったんだ」と分かる作りになっています。駅伝へと向かっていく中学生の気持ちがリアルに描かれていて、きっと共感できるはずです。中学生を描いた小説はいくつも読みましたが、瀬尾さんの描く中学生の姿には現実感があります。気になって調べてみたら、この方、京都府の中学校で5年間国語の先生をされていたのだそうで、その経験が投影されているのでしょうね。そう言えば、作中に登場する、競技経験が全くない、ど素人なのに陸上部の顧問を担当させられる上原先生の言動も、とてもリアルかつ的確なのですが、それも同じ理由からでしょう。唯一、難点を挙げるとすれば、中学生ってもっと「もやもや」していて、自分が何なのか、何に悩んでいるのか、ことばに出来ないから大変なのであって、作品中の少年たちのように明確にことばになっていれば、苦労はしないよな、とは思いました。しかし、「もやもや」のままでは小説にはなりませんから、そこは仕方ないですね。


この2冊、保護者のみなさんにも心からお勧めします。


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