第75回入学式 式辞

 

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。桜の花開く中、ようこそ和光高校へ。みなさんの入学を和光高校の教職員一同心から歓迎します。そして、保護者のみなさま、お子さまの入学を心待ちにしていたことでしょう。今日から、新しいステージのスタートです。

今年の入学式は5年振りに、新型コロナウイルス感染症の対策を特別に取らずに行われる入学式です。振り返ってみると、皆さんは、小学校5年生の最後から臨時休校になって、5月までは学校は休み。小6の様々な行事が中止になって悔しい思いをした人もいるか、と思います。中学に入ってからも、コロナ対策のため息ぐるしいことが多かったことでしょう。和光もそうですが、世の中全体、昨年の5月を過ぎてからほぼ通常の状態に戻りました。実に3年2カ月ぶりでした。新入生のみなさんには、これからの3年間、思いっきり高校生活を楽しんで欲しいと思います。

さて、これから3年間の高校生活を送る新入生のみなさんに、考えてもらいたいことがあります。それは、人と人の関りということです。コロナの時期は、人と人の関りが様々な形で制限されました。中でも、私が心を痛めたのは、黙食ということを指導せざるを得ないということでした。私は、もともとが食いしん坊なので、人と美味しいものを食べながらいろいろな話をすることが好きで、関係を深めるのにとても大事だと思っているのですが、皆さんはそういうことができなかった、ということです。

ところで、東京都の調査によれば、公立中学生卒業生の全日制高校への進学率は10年間で3.4ポイント、91%から87.6%に減っています。代わりに増えているのが、通信制を選ぶ中学生です。この数字をどう読みとるか、は色々なことが考えられますが、和光高校は全日制、つまり学校のある日には学校に来て学んでください、という学校です。ですから、和光高校を選んだ皆さんには、この学校での様々な体験を通じて人と人の関りを深めていって欲しいと思っています。

人と人の関りは五感によって育まれるものだという話を何年か前の入学式でしたことがあります。簡単に要約して言えば、「人は五感のすべてを使って他者を信頼するようになる生き物」で、「鍵になるのが、嗅覚や味覚、触覚といった、本来『共有できない感覚』」、だから「他者の匂い、一緒に食べる食事の味、触れる肌の感覚。こうしたものが他者との関係を築く上で重要」だということです。

「人と人の関り」はなぜ大切なのか。一つには、それは自分が何ものか、ということも、人との関りの中で決まってくるものだと思うからです。周りの人からの言葉によって、自分に自信が持てたり自己肯定感が持てる一方で、逆に自分がコンプレックスを感じたり、ネガティブな気持ちになることもある、というのは多くの人が経験していることだと思います。できれば、お互い肯定的に生きていける方がいい。そのためには、互いの良いところを探し伝え合うということを大切にして欲しいと思います。

もう一つ、「人と人の関り」の大切さということで言うと、やはり、人間は、ひとりだけで生きていくことができない、ということに尽きます。今の世の中、人は、働いてお金を稼ぐなり、収穫物を得るなどして生活していかなくてはいけない。その時に誰かと関わることは必須でしょう。山奥で誰とも関わらず自給自足で生活するということも考えられなくはないですが、極めて稀でしょう。そうであるなら、人と人の関り方というものを身につけていくことは、自立に向けて大切なことになってくるのではないでしょうか。

あれこれ、理屈っぽいことを言いましたが、まずは、アフターコロナの自由な生活を楽しんで欲しい。その中で皆さんが、今日の話の意味を振り返る時があるかと思います。皆さん一人ひとりがどう考えたかを、私が聞く機会もあるかもしれません。その時を楽しみにしています。

 2024年4月9日 和光高等学校 校長 橋本 暁

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