第76回 和光高等学校入学式 校長式辞
2025年度 和光高校入学式 式辞
ようやく春らしい日々が続いている今日この日、和光高校に皆さんを迎えることになります。新入生の皆さん、高校入学おめでとうございます。私たち和光高校の教職員は、みなさんの入学を心から歓迎します。そして、新入生を今日まで見守ってきた保護者の皆さん、お子さんの成長の節目を迎え、感慨もひとしおのことでしょう。お祝い申し上げます。
さて、ほぼ一月ほど前に、和光高校では卒業式がありました。和光高校がどのような学校なのか、卒業生代表のことばを手掛かりに少し話してみたいと思います。「和光は対話の成立する場所」だと卒業生は言っていました。対話が成立するには、その前提としてお互いが尊重される、ことが必要です。対話が成立したとて、誰もが納得できる結論が必ず得られる訳ではありません。が、互いの理解は確実に深まります。そして、そのことが、和光が掲げる自治ということにつながっていくと私は考えています。世の中では、和光は自由だとか、個性が尊重される学校と見なされています。それらのことは、しかし、改めて言うまでもないことであると私は思っています。それに、世の中に自由な学校、それが「制服がなく、ピアスをしても文句言われず、アルバイトをしても怒られない」ということなら、数は少なくても和光の他にもあります。アルバイトについては、余計なお世話ですが、十代の貴重な時間、自分が遊ぶお金欲しさならほどほどにしておいた方が良いよ、と言いたいとは思いますが。
話を元に戻せば、自由が、自分あるいは自分たちで決めていく自由だとしたら、話は多少面倒臭くなります。決めていくためには、選択をしなくてはならず、その前にあれこれ考えねばならず、しかも決めた結果について誰かのせいにできないからです。私たち和光高校の教員は様々なことをアドバイスはしますが、最後に決めるのはみなさんなのです。
対話の成立が自治につながる、と先ほど述べましたが、自治が「自分たちに関わることを自らの責任において決める」ということなら、自治に対話は不可欠ということです。最初から意見が一致しているということはまず考えにくいですから。異なる意見をどう調整して決めていくか、そこに自治の本質があります。意見が一致しない時、どのように決めるか、別な言い方をすれば決め方を決めておくこともまた大切です。
改めて、和光高校は自治を大切にしている学校であり、それは面倒くさいことではあるけれど、価値のあることだ、と強調しておきたいと思います。
卒業生は、和光高校での学びについては、「学びのきっかけが無数に転がっている環境で過ごせたことを幸せに思っている。しかし、互いの学びを共有する時間をもっとしっかり取って欲しい」という趣旨のことを言っていました。私たち教員は日常の授業の中で、意見交流のある授業を目指していますが、授業そのものが異なれば学びの交流が無いという指摘は受けとめなければいけない、と思っています。そして、改めて思うのは、学校づくりの主役は生徒たちであり、生徒の声が学校を変えていくということです。
最後のポイントになりますが、「自分の考えが世の中に拡がっていってそれが世界を変えていく力になっていくんだと思う」と卒業生は述べていました。今、世の中には、ガザやウクライナでの戦争を始め理不尽で不条理なことがあふれています。学校や身近なところから視野を拡げて、世界について考え行動することが皆さんに求められていると思います。簡単には世の中は変わらないかもしれないが、そのための一歩を踏み出した人がいなければ、変わることはない。変えようとする意志が大切なのだと強調しておきたいと思います。
新入生に送る式辞としては、少し理屈っぽい話になってしまったかな、と反省しています。しかし、皆さんが日々この学校で過ごす中で、「校長はあぁこのことを言いたかったのか」と思う日が来ることは確信しています。何はともあれ、十代後半の眩しい時期、様々な活動に取り組んで、自分自身を成長させて欲しい。私ももし、人生、自由に戻れる時が一つだけ選べるなら選ぶであろう高校生の時間、どうか充実した時を楽しんでください。
2025年4月9日 和光高等学校校長 橋本 暁